JRDBを利用してデータ解析を行い、馬券の手助けとするノウハウを少しずつ公開していこうという趣旨のコラム。第3回はざっくばらんとした実体験をまじえながら、良馬場・重馬場適性がどのようにデータに現れるかについて考えてみたいと思います。

このレースはあまり自慢できる種類の買い目ではないのですが…小倉1Rの「買える馬」は、こう公開しました。

1R 9ジルジェンティ(騎手&オッズ)、7サトノヴィーナス(減点少ない)、16ローヌグレイシア(騎手&オッズ)

こうはいっても、小倉は前日からの雨に見舞われJRA発表はダート不良馬場。馬場の巧拙がはっきり出てしまうと、力通りには決まらないムードがぷんぷんです。「買える馬」かつ「重」馬場でもある程度信用できそうなのはというと、7サトノヴィーナスと16ローヌグレイシア。この2頭から相手9など数頭を絡めたフォーメーション馬券をまず塗り…あらためて手元の紙を見つめ直しました。

人気薄14ディーバダンスが、「良」より「重」で大きく評価の上がる穴馬の1頭。人気サイドでは「重」でも上位になる8と15が、都合よく7と16それぞれの同枠に入っています。これなら4枠と8枠から、薄めを枠で押さえる価値がある？枠連のオッズをざっと眺め、一番売れていないのが1枠。それでいながら、この枠の2頭も都合よく「重」で2点以上評価の上がる馬です。

少点数で済むならと、遊びで4・8枠から1・7枠への枠連を追加してみたんです。そのレース結果はこちら。

本線の馬券は外れるも、4点だけ押さえた枠連から1-8は8,170円。なんとなく流れが見えた気がして、この日の不良小倉と重京都は「重」を重視して、枠連中心に買う方針にしました。

本来はこの指数を使った予想で「当てやすいレース」ではないため、詳細表を公開していないレースの話となってしまって申し訳ないのですが…小倉2Rの枠連3-5は5,640円、京都3Rの枠連3-5は11,840円など、枠連を高い的中率(トリガミも含みつつです)で引っかける1日になってしまいました。

この日の「重馬場A」判定、京都・小倉では6戦4勝。

いくら極端な馬場とはいえ、正直こんなに嵌まり続ける日は滅多にありません。そうはいいながらも、この「良」と「重」の数字も適当につけたものではなく、データから適性を推理したいがために作り上げたロジックによるものです。この日の結果は多分の偶然性を含みつつも、この補正の有効性が立証できたかな？といったところ。「良」「重」補正を考えるために、まずは前提となる知識のところから始めてみます。

競馬初心者だったころを思い出してみてください。雨が降り馬場が悪化するに従って「良→稍重→重→不良」のように馬場発表が変化するよ。芝が濡れると重たくなり、時計がかかるようになるんだよ…そう勉強した時期があったはずです。しかしその次には、ダートでは重馬場になると脚抜けが良くなり時計がかからなくなるんだよ…「重」の文字とは逆じゃないかと、しばらく違和感が抜けなかった方もいたんじゃないでしょうか。

初心者だったころの気持ちに戻ってもらうために、ここではちょっと「ばんえい競馬」の話を持ち出してみます。

※ばんえい競馬を熟知している方はすみません、むしろ以下の内容に嘘がないかチェックしていただけると助かります(笑)

現在は帯広のみでほぼ1年を通して行われている「ばんえい十勝」、サラブレッドの倍はあろうかという巨体の重種馬が、500kg～1トンもの重りを積んだソリを引き、坂が2つ設けられた直線200mのコース上で力を競う直線競馬です。

サラブレッドのようにギャロップで駆け抜けるわけではなく、ノシノシと力強く(ときどき止まりながら)ソリを引いてゴールを目指します。そのため、ソリがどの程度よく滑る馬場になっているのか…これが予想する上での一つの重要なファクターとされています。ですから馬場状態も「良・稍重・重・不良」のような曖昧な表現ではなく、「馬場水分量」という0.1%刻みの数値そのものが発表されます。

手元のばんえい競馬資料の中に、私なりに馬場水分量についてまとめたメモがあります。

ばんえい競馬の標準的な馬場は、馬場水分量1%台半ばあたり。この状態をソリが滑りにくい「重馬場」と呼び、雨が降ったり冬期に雪が積もったりしてソリが滑りやすくなると「軽馬場」と表現します。この言葉使い、サラブレッド競馬とは逆ですね。

反対に乾期になると、馬場水分量は1%を切ってくることがあります。ここまで行くと不思議なことに、こちらもソリが滑りやすい方向になっていきます。水分量が高いときは「軽馬場」、水分量が低過ぎるときも「軽馬場」。ばんえい競馬では、水分量に伴って一方向に軽重の表現が変わるわけでなく、純粋にソリの滑りやすさで軽馬場・重馬場と表現する。そういう文化、習慣があるのです。

さて、サラブレッド競馬に話を戻します。芝コースは、馬場水分量が高くなればなるほど時計がかかるようになり、重くなる。一般論として、これは真実です。

より考え方が難しいのはダートコースです。ダートは雨が降って脚抜けが良くなると、速い時計が出るようになります。しかし雨が降り過ぎるとどうなるか？競馬歴が長い方は常識として知っているでしょうが、水分が溜まり過ぎていわゆる「田んぼ馬場」になると、時計は極端にかかる方向になります。ばんえいと同じように、一方向だけで考えるわけにはいかないんです。

ダートにおいて、良馬場より稍重馬場は時計が速い。重馬場はさらに速い？不良馬場になると逆に遅くなる？このあたり、皆さんはどのように解決されているでしょうか。過去に行われたレース結果を調べればわかることですが、実際は「不良」発表での高速馬場・低速馬場どちらもが存在します。時には「重」発表でありながら、超低速馬場になることもあります。さらに(こちらの方がよく知られているでしょうが)、芝でも(馬場水分量とは関係なく)「高速馬場」や「低速馬場」は存在します。実はJRAの発表によるレース直前馬場状態って、走破タイム分析ではほとんど使い物にならないのが実情なんです。

そうした理由から、JRDBデータ「成績情報」には(JRA発表とは異なる)独自の「馬場状態」が含まれています。これは4段階でなく、「馬場差」も考慮した12分類です。この中身がどんなものか、次に見ていきます。

今回も全体から見ていきましょう。2015～2019年の5年間の全レースを、芝ダと馬場状態別で分析。

※この後でタイム分析に使用する目的ですので、障害は省略します。障害は基本的に芝コースを使用(最後の直線のみダートの場合あり)しますので、分析結果を予想に適用する場合は芝データを使った方がマッチする印象です。

良・稍重・重・不良の4種が、それぞれ速・標準・遅の3段階に分かれ、計12分類。他にわかることは…あまりありません。

予想をする上でどんなデータが欲しいのか、それを考えましょう。速い馬場向きと遅い馬場向きのデータを取り分けること、今回はここでしょうか。そうであれば、この12分類をそのまま使う必要はなさそうです。どうにか再分類して減らしたいところですが、さまざまなコースや距離が混在した分析結果では、タイムを評価に使うことができません。芝とダートそれぞれ、どこか1つのコース&距離に絞りましょう。できる限りたくさんのサンプル数が取れるのが理想です。

JRAの競馬で一番たくさんのレースが行われるのは、どこの競馬場のどの距離でしょう？経験上で想像はつくかもしれませんが、今回しっかり調べてみましょう。集計キーを「開催場所」「芝ダ障害コード」「内外」「距離」として、分析します。

※今回の分析結果には直接影響を与えませんが、この手の分析では「内外」をしっかり指定するのがポイントです。新潟や京都の芝コースでは、内回り・外回り両方に同一距離の設定があり、実際にレースが行われているケースが存在します。

1着件数順にソートし直し、上位10傑がこの結果です。一番施行レース数が多いのは、中山ダート1800m。芝の中ではというと…全体9位、実は小倉芝1200mなんです。特定コースを代表として扱う場合、ここを使えば比較的精度の高いデータが取れるということになります。

※中山ダート1800mより、中山ダート1200mの方が総件数は多くなっています。これは、平均出走頭数が1200mの方が多いことによって起きた逆転現象です。数字上ではどちらを使っても構わないと思いますが、中山ダ1200mはスタート直後に芝を通るコース。どちらが今回の目的に向くかと選ぶのなら、やはり1800mの方でしょう。

先に、数の多い中山ダ1800mから。

各馬場状態において、特定の基準タイムより速いタイムで走破したケースと、遅いタイムがかかったケース。どちらが多いかを見れば、それが良馬場寄りなのか、重馬場寄りなのかが判断つきそうです。

ここはちょっと面倒な試行錯誤があるのですが、結論だけ書きます。集計のタイムに「0,1572」を閾値として指定して分析すると、こんな結果が得られます。

ここで見る必要があるのは、総件数だけ。「稍重」で1:57.2未満で走破した件数が921件、1:57.2以上かかったのが926件。ほぼイコールですので、これを基準とします。

「良」だけが、1:57.2以上かかった方が多数を占めます。これが低速馬場で、「良馬場」適性重視。

「速良」「速稍重」「重」「速重」「不良」が、1:57.2未満で走破した方が多数派。こっちが高速馬場で、「重馬場」適性重視。

「遅重」「遅不良」これらはいわゆる田んぼ馬場。普通の馬場ではなく時計もどっちつかずですので、この分類からは除外することにしましょう。

まとめ直すと、このようになります(中山ダ1800mではサンプルがなかったものは、配置上の推定で決め付け)。

この分類をSQL条件文で表現すると、このようになります。

ダート良馬場条件: D番組データ.芝ダ障害コード = '2' AND D成績データ.馬場状態 IN ('10','12','22')

ダート重馬場条件: D番組データ.芝ダ障害コード = '2' AND D成績データ.馬場状態 IN ('11','21','30','31','40','41')

過去レースをこの分類で集計し直すと、「良馬場」が43%、「重馬場」が35%、残りの22%はどちらともいえない馬場という扱い。これを使えば、JRA発表の「良」「稍重」「重」「不良」を使うよりも正確な「良馬場」向きと「重馬場」向きの結果を抽出できる、そういうわけです。

同様に、小倉芝1200mの方もやってみます。こちらは集計のタイムに「0,1099」を指定。すると基準タイム以上と未満がほぼイコールになるのは、普通の「良」馬場になります。結果のまとめはこのように。

こちらもSQLで表現します。

芝良馬場条件: D番組データ.芝ダ障害コード = '1' AND D成績データ.馬場状態 IN ('11','21')

芝重馬場条件: D番組データ.芝ダ障害コード = '1' AND D成績データ.馬場状態 IN ('12','20','22','30','31','32','40','41','42')

まとめの表では一見は重馬場の方が多そうですが、実際には「速良」の結果が圧倒的に多いことから、「良馬場」が69%、「重馬場」が14%、残りの17%がどちらでもない馬場という扱い。こんなバランスになっています。

さて、より正確な馬場分類方法の検討が終わったところで、今度は馬の「蹄」の話に移ります。今回は話がバラバラに飛んでしまいますが、一応ひとところに収束するのでご安心を…

昨年9月21日、テレビ東京系列で放送されたウイニング競馬(私はTVhで視聴しました)に、大井競馬のレジェンド的場文男騎手がゲスト出演されておりました。このとき馬の「芝適性」に話題がおよび、的場騎手が大変興味深いことを語ってくれました。

エピソードは、1986年のサンケイオールカマー(G3)に招待馬としてカウンテスアップで出走したときのもの。

11R オールカマー｜1986年9月21日（日）4回中山6日｜JBISサーチ（JBIS-Search）

競走成績：全競走成績｜カウンテスアツプ｜JBISサーチ（JBIS-Search）

カウンテスアップは3歳(旧年齢表記)時は岩手競馬に所属、デビュー2戦目から年明けまで11連勝し、1戦取りこぼした後に東北優駿を制して4歳馬の頂点に。5歳で大井競馬に移って川崎記念を優勝、その後は一時愛知競馬に移籍し、6歳時にはまた大井競馬に戻ります。オールカマー参戦は、この年の秋のことでした。

馬の状態は大変良く、的場騎手自身は勝てる可能性すら感じて挑んだものの、結果は7着。1着馬から1.3秒差と大きく負けましたが、これは馬の力量差ではなく、適性によるものが大きかったとお話しされました。カウンテスアップはやや極端な立蹄で、ダートでは砂が流れやすく軽い走りをしていたそうです。ところがこのレースでは蹄に芝が引っかかり、思うように進んでいかなかったと。ダートで軽い走りをしていても、芝で軽い走りができないのは蹄の形状のためであると、そういうお話でした。

立蹄とはどういうものかは、こちらのリンクを参照していただくとわかりやすいと思います。

新感覚の競馬新聞・競馬予想　「競馬チェック！」　のブログ : 「馬券の勝ち組」になるには…～赤木流馬券術～　蹄の説明

お話がこうであったのは事実ですが、芝には立蹄が向かないという単純な話ではありません。芝といっても野芝と洋芝があり、複合したオーバーシードがあり、エクイターフがあり、洋芝でも使われている芝の種類・組合せが競馬場によって異なります。そして馬場の荒れ具合、先ほどまで話題にした水分量によっても変わります。

ダートも同様でして、開催前に砂洗いをおこなった直後であれば砂粒は均一です(砂洗いは毎開催間に行われるわけではなく、各場年1回)が、馬場が使われると踏まれた砂が割れて細かくなるため、ほんの少しだけ軽くなっていきます。風が強いと砂が飛んだり流れていくこともあって、馬場変化は気候や季節によってまちまち。競馬場ごとのコーナー形状などによっても、事情は変わってきます。そしてやはり水分量、芝よりも少ない雨量で影響を受け始めるのは見逃せないところ。

こうした要素を考えた上で、その季節のその競馬場の良馬場/重馬場での良績に、JRDBの蹄タイプ(立・標起・標準・標ベ・ベタと大・中・小・細の組み合わせ)がどれくらい頻出してきたか、私はそれを毎週算出することにしています。

先週の小倉ダートの場合、重馬場では細蹄全般の激走に注意が必要でした。発想は書いたとおりですが、手法はExcel技法寄りになってしまうので今回は割愛させてください。

もう一つの視点、「重馬場A」の方は具体的なところを記載してみます。こちらは単純に、その馬自身の過去走履歴から、良激走・重激走の可能性を判定するもの。他所にはない強みは、先にお話ししたとおり良馬場・重馬場判断が異質であることです。JRA発表「良」馬場の履歴であっても「重馬場適性」のために使ったり、そういったことが起きうるのです。

「重馬場A」のSQL条件文そのものを貼ってみます…が、JRDBデータの癖のあるところでもあり呪文レベルになってしまっています。

発想は、こういうことです。

- 今走と同じ芝ダ障害コード(芝と障害は同一視)、かつ重馬場判定(前述のもの)となる過去走を抽出する

- 合致するレースの「確定単勝人気順位平均 ÷ 着順平均」を算出、この値が3以上になった場合は「重馬場A」適合とする

これまでに走った重馬場判定レースすべてを見て、人気順位より明らかに着順が良くなっている馬を、計算式一発で効率よく探し出しているわけです。

使用している計算式・埋め込んだ値は試行錯誤した末のものであって、誰がやっても同じものになるわけではありません。しかしながら私の経験上では、これがなかなか都合の良いマジック計算式で。実際に使ってみながらこういうのを探すのも、また競馬の楽しみの一つになりませんかね。そういう方いらっしゃいましたら、GGAを使ってみませんか？

[過去のGGAコラム一覧]

【GGAコラム】第1回トモジャスティスは頭で買えた？～回収条件「調教師&ローテ」作成ノウハウ(前編) (2020/2/4)

【GGAコラム】第2回外厩時代は休み明け不問？～回収条件「調教師&ローテ」作成ノウハウ(後編) (2020/2/13)