　競馬民では『競馬の経済学と心理学』と称して、馬券には1ミリの役に立たないような記事を投稿します。

　第一弾はいきなりタイトルが過激ですが、以前Twitterでもチラッと呟いたことのある「公共財」に関するお話です。

◆公共財とは？

　非排除性・非競合性を有する財・サービスのことです。（これだけで意味の分かる人は次の項目へ）

　非排除性について、例えば、公園なんかは、私がお金を払わず立ち寄っても、管理人のおじちゃんから「出ていけ！！」と怒鳴られることはありませんよね？
　一方で、僕がディズニーランドにお金を払わず入園した場合、ほぼ間違いなく管理人から入園料を請求されるか、さもなくば強制退去になるでしょう。当然ですね。

　このうちの前者を非排除性、後者を排除性と言います。お金を要求することで、「払えない人・払いたくない人」を排除できるわけですね。

　もう一つ、非競合性ですが、例えば、僕が潮干狩りをしていたとして、そこでアサリを5兆個取ったとしましょう。辺り一帯のアサリは当然絶滅状態となり、他の人がそこに潮干狩りしに来たとしても、「一生アサリ取れん」としか呟きません。僕がアサリをいっぱい取ったからですね。

　また、一般道路でも、普段空いていればスイスイ走れるのに、混雑すると満足に走れません。

　このように、自分が消費すると、他者が（満足に）消費できなくなる、あるいは逆に、他者に消費されると、自分が（満足に）消費できなくなる財・サービスの性質を、競合性と言います。今回は非競合性なので、自分が消費しても、他者の消費を阻害しない、ということです。

　公共財は非排除性・非競合性を有する、ということなので、お金を払う必要もなければ、使いまくっても減らないし、他の人が使う分もなくならない、というものです。

　具体例を挙げると、花火大会です。花火大会を見に行くとき、皆さんはお金を払ったことがあるでしょうか。たぶんないかと思います。だって、仮に「お金を取ります」って文言があったとして、払わなかったとしても空を見上げたら見えちゃいますし。また、私たちが花火大会を10人で見たとしても、10,000人で見たとしても、花火は見られますよね（スポットによってよく見える/見えないの違いはあると思いますが）。

　あるいは、NHKの公共放送（払っている人ごめんなさい）、スケールの大きい話だと国防などもよく挙げられます。

　下図は、排除性・競合性別の財・サービスの名称と、具体例です。

	競合	非競合
排除可能	①私的財 ex.スマートフォン、美容室	②準公共財・クラブ財 ex.電力事業、温泉
排除不可能	③共有資源・コモンプール財 ex.海洋資源、一般道路（渋滞）	④（純粋）公共財 ex.花火大会、NHK、国防

◆競馬予想は？

　まず排除性から考えてみましょう。

　これは考え方によるかと思います。有料予想にすれば、当然対価を支払うことになるので、排除性を有すると言えます。一方で、無料予想については、「お前は見ていい」「お前は見ちゃいけない」といった選別を予想提供者が行うことは出来ません。

　ですので、有料予想の場合は、上図の排除可能、無料予想の場合は、上図の排除不可能に属することになります。

　次に、競合性。

　例えば、私、素粒子郎の予想を10,000人が購入したとして、あなたが購入できなくなる、ということはあるでしょうか。数量限定販売ならまだしも、基本的には購入可能だと思います。ちなみに、「10,000人購入したら、オッズが不当に下がるから、予想購入で得られる効果が下がるのでは？」という反論を思いついた方もいるかと思います。これは、仰る通りだと思いますので、競合性は、緩やかながらも存在すると思われます。しかし、他の予想サービスの存在や、購入者の現状の規模感を考えると、影響力は極小だと思われます。

　結論すると、競馬予想は有料予想の場合、上図②準公共財・クラブ財、無料予想の場合、上図④（純粋）公共財となります。

　そもそも、競馬予想は一側面として考え方＝知識を提供している、という捉え方が出来ると思うのですが、一般的に、知識は公共財的性格を持つとされています。Wikipediaの公共財のページにも載っているくらいです。

◆競馬予想と競馬理論との差異

　ところで、上記で「競馬予想は一側面として考え方＝知識を提供している」と記載したばかりですが、競馬予想と競馬理論は似て非なるものであることは、競馬ファンの方なら何となくわかると思います。競馬予想＝印＋（買い目）＋（見解）なのに対し、競馬理論は印も買い目も恐らくありません。どちらかというと、上述にもある、「考え方＝知識」の根幹というのが、一般的なイメージではないでしょうか。

　指数予想家をイメージしてもらえれば話は早いと思います。彼らは、各レースにおける指数を出して予想を展開しますが、どのファクターを指数に入れたか、どのファクターを重視したかなどの全貌は絶対に明かしませんよね。これは感覚的に分かると思いますが、「全貌を明かしたら同じように指数を自作されて、自分の予想を買ってもらえなくなる」という意識が働いています。経済学的に言うと、「他者に真似されて、希少性がなくなる＝価値がなくなる」ということになります。

　無料で（非排除性）、誰でも何人でもマネできる（非競合性）、公共財の完成です。

◆フリーライダー問題

　これは、その他の定性的な競馬理論にも同様に当てはまります。指数予想家が感覚的に分かりやすいだけで、例えば私の風理論なんかも、無料で出してしまえば、閲覧者は、コストを負担することなく、競馬理論の吸収によって便益を受けることになります（一応言っておきますが、ここで言う競馬理論は、正しい理論であるということが前提です）。「タダで回収率UP出来る、あるいは、競馬がより深まる」のであれば、誰だってその競馬理論を見るのは当たり前です。ちなみに、こうしたタダで便益を享受する人のことを、経済学ではフリーライダーと呼びます。要するにタダ乗りですね。

　一方で、競馬理論を無料で出した人は、理論の導出にかかった金銭的・時間的コストを負担しているにもかかわらず、競馬理論を公開したことによる便益は、コストを負担していない人と同様、競馬理論の吸収による「回収率UP出来る、あるいは、競馬がより深まる」と一緒です。公開者は「何か損した気分じゃ～」、となるのが普通ではないでしょうか。

　通常、公共財は、公的機関による提供でない、市場経済に任せる形を取った場合（要するに民間で需要・供給を賄うということです）、極論、費用を負担して公共財＝競馬理論を提供する者が誰もいなくなる、という悲しい結末を迎えます。経済学では、これを『市場の失敗』と呼びます。というか、競馬予想業界はもうすでにそのような状態になっており、無料で競馬理論が公開されている例はほとんど見かけません。

　こうしたフリーライダー問題の解決方法は、①公的機関による提供、②財を獲得・会得した者に占有権を与える、の2つと相場が決まっています。競馬予想業界においては、①はほぼ不可能（JRAが予想理論を提供するようなもの）なので、②が基本線となります。これは、理論開発者の回収率向上と有料化による対価の獲得という形で為されている、と考えるのが正しいでしょう。

◆無料予想の失敗

　では、タイトルにもありましたが、ここまでの話と、無料予想の失敗がどう繋がるのか、いまだ話が見えてこない方も多いかもしれません（見えてる方は、はなまるあげます）。

　先にも述べましたが、無料予想は公共財です。直近の「◆フリーライダー問題」の項では、公共財である競馬理論においては、『市場の失敗』が発生することを説明しました。これは、同じく公共財である無料予想にも当てはまるとは考えられないでしょうか？

　競馬理論と競馬予想は例えれば木の幹と枝葉。非常に強い連関があり、それゆえに、両者が同じ公共財の性質を持つのであれば、市場経済的には失敗の流れにたどり着くのは、想像に難くありません。

　「じゃあ無料予想は悪なのか」と反論をいただくかもしれませんが、決してそのことを主張したいのではありません（自分も無料予想書いてるし）。そもそも、無料予想を投稿する人は、どういった理由で投稿しているんでしょうね。思いつく限り挙げてみました。

①いつか有料予想に！
②予想の思考整理がてら
③みんなで楽しくワイワイやりたい！
④趣味でやってる（書くのが楽しい）
⑤俺の予想はすごいぞ！

　こんなところでしょうか。①については、公共財の私的財化で、非常に経済合理性があるのでそのまま続けてください。

　問題は②以下。先に言っておくと、①～⑤は全て独立した感情だとも思いません。否定するつもりはないので、その点だけご了承ください。

②予想の思考整理がてら
　→投稿する必要がありません。メモ帳で書いて見返せばそれで要件は満たせます。

③みんなで楽しくワイワイやりたい！
　→方法が合理的ではありません。オプチャ、ビデオ通話、キャス、現地などのやり方がある中で、コミュニケーションの核となる双方向性に乏しい「予想記事の作成」という行動を取るのは合理的ではありません。

④趣味でやってる（書くのが楽しい）
　→②と同じです。書くのが目的であれば投稿する必要がありません。

⑤俺の予想はすごいぞ！
　→承認欲求です。これ自体は合理的な欲求と言えますが……

　さて、何度も言って恐縮ですが、無料予想は公共財です。公共財の野放しによる『市場の失敗』を防ぐための方法は、前述した「公共財の私的財化」＝◆フリーライダー問題の項で述べた「財を獲得・会得した者に占有権を与える」だったかと思いますが、上記の無料予想の投稿理由と見比べてみると、大きな歪みが生じているように見えます。

　これは何とも不思議なことです。この歪みは、経済学的に言えば、「パレート効率的でない」、つまり、『市場の失敗』を意味します。

◆まとめ

　ここまで長文読んでくださり、本当にありがとうございます。本日の内容をまとめると、以下のようになります。

◎公共財とは、非排除性・非競合性を有する財・サービス
◎競馬予想は、無料予想の場合は、公共財に該当する
◎競馬予想と競馬理論は似て非なるが、競馬理論の方がより公共財をイメージできる
◎公共財をそのまま放っておくと、フリーライダー問題により、『市場の失敗』が発生する
◎競馬理論・競馬予想においても、無料であれば『市場の失敗』が発生する
◎競馬予想における『市場の失敗』の回避方法は「私的財化（有料予想化）」である
◎ところが、無料予想が存在している理由は、「私的財化以外にもある」という歪み＝『市場の失敗』が生じている

　本来、公共財の解決方法として挙げられている「公共財の私的財化」以外で、無料予想＝公共財が存在している理由。

　次回は、そこに焦点を当ててみたいと思います。