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　さて、題名にある件ですが、風の観点から競馬を見始めたころから割と気になっていたことがありました。

「もし、風によってラップやタイム自体に変化があるとするならば、世の中一般のタイム評価は果たして本当に正しいだろうか？」

　一時は過去5年の平均を取れば誤差は収束されると考えていた私ですが、風の情報を追いかけ続けていたさなか、ふと直観的に以下のような着眼点を持つに至りました。「開催期間中に吹く風の向きはアトランダムではない。」

　よくよく考えたら当たり前の話です。

　日本には春夏秋冬四季彩々、時季によってさまざまな気象を織りなしていますが、特定の季節には特定の気象現象というものがあります。

　例えば台風は年がら年中発生していますが、日本に被害をもたらすレベルになり、かつ日本上空を通過するタイミングは、おおよそ6月～10月の間で、冬は台風は発生すれど実際に日本に被害をもたらすことはほぼありません。

　あるいは梅雨なんかはもっと典型的で、6月～7月の特定の時期にのみ梅雨前線が日本上空に停滞して、シトシトと長雨を降らせます。日本人各々持つ感性に多少のズレはあれど、特定の時季に特定の気象現象が発生することは、無意識のうちに理解しているんではないでしょうか。

　長々話しましたが、要は風もその中の1つなのです。

　地理的要因から、特定の開催期間では特定の方向から風が吹く。上記の話を鑑みると、至って普通のことを話している感覚に、少なくとも私はなります。

　実際、今年の函館競馬場は開催期間中ほぼすべてにおいて直線向かい風でした。しかしこれは偶然でも何でもありません。

　函館競馬場は当然函館市にありますから、非常に海に近く、私は行ったことないので分からないのですが、スタンドからは海も見えるくらいだと窺っています。

　それだけ海に近い競馬場で、開催は梅雨～梅雨明けくらいの間。暑くなりたての頃合いで、日中は海風（海→陸へ風が吹く）が発生しやすい状況だと言えます。ほぼ必然的に直線向かい風が発生するという仕組みなんですね。

　ちなみに、このような論展開をすると、「ずっと直線向かい風なら、その影響を考える必要性はないのではないか」といった反駁のお言葉を頂戴することになるかと思います。仰ることはごもっともなんですが、かといって他の競馬場も風向きがずっと一定かと言われるとそんなことはないので、「この競馬場では風を考慮して、この競馬場では風を考慮しない」というダブルスタンダードに陥ってしまいます。理論の展開に人間のご都合を挟み込むわけにはいかないので、この現象はご法度というわけですね。

　ともあれ、海風が発生した場合、競馬場の位置関係は以下になりますので、函館競馬場では強い直線向かい風バイアスがかかっていることが分かりました。

　そこで少年（おっさん？）素粒子郎は考えます。

　「競馬場ごとに一定の風向き傾向があるというのなら、一般的に過去数年の走破時計から導き出される基準タイムにも風によるバイアスが働いているのではないか？」

　恐らく、馬場差によるタイムの速い遅いを考えている基準タイムはあれど、風のバイアスを基準タイムに取り入れている人間はいないのではないでしょうか。私は早速その解析にとりかかりました。

　しかしそれもつかの間、この手法に1つ、致命的な問題点があることが発覚します。

　「風バイアスを基準タイムに取り入れるほどの十分なデータが存在しない……」

　私が風を予想に取り入れるようになったのは今からせいぜい2年半～3年くらい前のこと。過去タイムから風によるタイムバイアスを取り除いて平均したとしても、どうしてもサンプル数が少ないコース・条件が出てきてしまいます。これでは出てきたデータもコースによって歪な基準データになりかねません。

　そこで、私は発想を逆転させ、「帰納的に基準タイムを導くのが不可能なら、演繹的に基準タイムを作成するという可能性」について考えました。

　要するにコーナー半径や起伏の多さ、スタート地点などを全て計算に入れれば、全てのコースはその計算式に則って基準タイムを計算できるのではないか、ということです。

　これは、競馬予想する人の99%が、やることに意義を見出せない作業です。なぜなら、この作業には3つの関門があるからです。

　1つ目の関門は、基準タイムを取り入れる必要のない予想法もあるから。

　様々な予想法がひしめく中で、タイム指数による予想は一時期幅を利かせていた一方で、全てが数字で表現できてしまうため、競馬予想のDX化の一環として、真っ先にAI・指数派によって攻略されたものです。今やTargetを使えば誰でも手軽に過去5年、過去10年の各コース平均タイムが分かりますし、それによる能力評価はタイム指数予想派としてはもはや常識となっています。

　むしろ今はアナログ情報や個々の暗黙知による予想方法、すなわち、血統や映像回顧、Mの法則といった、数字の介入が限定的な予想方法が注目を集めています。それらを主体として予想している予想家たちも、走破タイムの評価は一定程度は行うかもしれませんが、ある程度前提条件として考えていて、期待値・妙味として捉える予想家は少なくなっているでしょう。

　2つ目の関門は、そもそも風による全体時計への影響を知らない、もしくは軽微に感じているから。

　風に関することは今後別記事にて掲載する予定なので、今は多くを語りませんが、風向き・風速の大小による全体時計への影響は、予想家を名乗っている方の中でもその重要性に気付いている人は少数派です。

　影響を軽微に思っている以上、風バイアスによる全体時計への影響は、サンプル数を増加させることによってその影響を極小に出来る（＝平準化）と考えるのが自然な流れのように思います。

　3つ目の関門は、仮に2つ目の関門までクリアしたにしても、作成に困難を極めるから。

　今回、私はとある競馬場の2000mのコースを水準点として（どこのコースかは現状企業秘密です）作成していますが、予想家の中には札幌競馬場がいまだに小回りコースだと誤認している方も少なくありませんし、各競馬場のコーナー半径や、直線の長さ、スパイラルカーブの有無なども、完全に把握されている方は少ないかと思います。

　まあかくいう私も全部スラスラ言えるわけではないのですが笑、それらを今一度調べなおし、引き込み線スタートや上り坂/下り坂がラップに与える影響、各距離の長短による1F平均の違いなどを考察し、ようやく演繹的な方法による基準タイムの作成が形を成してきました。

　まだ人様に見せられるレベルの代物ではありませんし、これからさらに試行錯誤を重ねて洗練させていければと思いますが、基準タイムを何気なく使っている皆さま、風の影響を多少なりとも感じていらっしゃるのであれば、一度そのタイムに疑問の目を差し向けてみてはいかがでしょうか。

　最後に、人様に見せられるレベルではないと言いつつ、冗長な文章をここまで我慢して読んでくださった方に何もお返しがないというのは、読者の方にも大和田常務にも失礼な気もするので、その計算式の一端をお見せします。当然、これが正解かどうかは私にも分かりませんが、少しでもご参考になれば幸いです。（正直長距離に関しては実証データが少ないということもあり、やはりというか、あまり本番に耐えうる代物でもないような気がしますが…）

◆1400m~2600mにおけるハロン計算式：±0.1/f
　ex)2000mのハロン平均を12.0/fとした時、1800mのハロン平均は12.0-0.1=11.9/f

◆1000m~1400mにおけるハロン計算式：±0.2/f
　ex)1400mのハロン平均を11.7/fとした時、1200mのハロン平均は11.7-0.2=11.5/f

◆2600m~3600mにおけるハロン計算式：±0.05/f
　ex)2600mのハロン平均を12.3/fとした時、3000mのハロン平均は12.3+0.1=12.4/f

　ちなみに、この考え方を採用することで、各馬が持つ本質的な距離適性も明らかにできると考えています。

　それは、「自分が気持ちよく走れる追走スピード」の違いによる距離適性の違いを意味します。ハロン平均がいくらなら道中促さず、あるいは力まずに走れるかどうかも、この研究を通してより深みを増すことが出来るのではないかと考えています。そのあたりはまた今後の研究項目ということで、次回以降の記事に回したいと思います。